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2010-04-08 00:00
渡部恒三発言で「普天間政局」が幕開け
杉浦正章
政治評論家
渡部恒三から「後任は財務相・菅直人」とまで名指しされても、まだ「(自分に対する)激励だ」とは、我が国の首相はどこまで物事の本質を理解しないお方なのだろうか。公務員研修会で首相・鳩山由紀夫は「トップの首相が大ばか者であれば、そんな国が持つわけはない」と述べたが、永田町や霞が関では即座に「自分のことか」という反応が起きたことが手に取るように分かる。渡部発言は明らかに「普天間政局」への号砲が鳴ったことを意味する。鳩山は、昔ターザン映画にでてきたような底なしの泥沼に落ちて、もがき始めたように見える。渡部は普天間問題について4月8日、「鳩山君が全く解決できないとなれば、政権交代となる。次は菅君だ」と発言した。渡部はこれまで反小沢の発言を繰り返してきたが、鳩山に対しては同情的であった。退陣に直接言及したのは、これが初めてだが、狙いはどこにあるかだ。まず前提条件として渡部の脳裏には、鳩山では5月末までに普天間の解決は出来ないとの判断があるのだろう。
確かに党首討論で鳩山が思わせぶりに発言した“腹案”なるものは、閣僚との間で調整済みで、既に米国に提示した案であることがはっきりしている。すなわち(1)米軍キャンプ・シュワブ陸上部への代替施設建設、(2)徳之島(鹿児島県)へのヘリ部隊移転を先行実施、(3)その後で米軍ホワイトビーチ沖を埋め立てて本格的な滑走路などを建設、の3案複合実施である。しかし米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』は6日、政府当局者らが「日本政府が示した現行案に代わる新たな移設案は、計画の概要だけで、詳しい内容はなく、アメリカ側は日本側に何の対案も示せない状況だ」と述べていると伝えている。さらに当局者は「日本側が提示したのは提案ではなく、議論の準備段階のアイデアや概念だ。ボールはなお日本側にあり、日本は正式な提案を示す必要がある」と述べたという。明らかに米国は地元の了解もないまま示された3案の実現性に疑問を持っており、普天間移設の現行案を依然支持していることを物語っている。
大統領・オバマが核安保サミットで9か国の首脳と公式会談するのに、鳩山を外したのは、露骨なまでの鳩山忌避反応だ。冷徹な米国外交の過去の歴史をみれば、ロッキード事件の例を見ても分かるように、不作為の作為で他国の政権を窮地に追い込む時がある。ワシントンで「反米政権」との評判の高い鳩山政権を、従来の合意履行を主張するだけで、苦もなく倒せると見れば、そう動く可能性も排除できない。加えて沖縄は「最低でも県外」の鳩山発言が期待感をあおって、反対運動は近来にない盛り上がりを見せている。徳之島も4200人の反対集会に次いで、5月には更に大規模の集会を予定している。地元では受け入れる空気はないに等しい。したがって米国も地元もまさに八方ふさがりの状況となりつつある。来月末までに結論が得られる可能性は、極めて少ないと言っても過言ではない。
渡部の発言は、こうした状況を読んだ上での発言だ。その狙いは5月末の「移設問題破たん」を契機に、鳩山に辞任を迫って、菅に代え、返す刀で小沢を切ろう、というところにあるのだろう。果たして渡部にその大技が出来るかどうかだが、状況は出来つつある。連立内部でも国民新党の国対委員長・下地幹郎は「解決できなかったら鳩山首相が辞めるべきだ、というのは当たり前だ」と述べるとともに、5月決着失敗なら、連立を離脱する意向を明らかにした。社民党も連立にとどまらない可能性がある。政権内部からも外相・岡田克也が「5月末までに日米合意ができなければ、かなり深刻な事態になる」と明言するに至っている。こうした普天間政局の流れを押しとどめる有効な手段はまずない。加えて「政治とカネ」への国民の不信・不満は緩むことはない。幹事長・小沢一郎が訪米を中止したのも、希望したオバマとの会談にホワイトハウスが応じないことが原因だろう。それに加えて、とても普天間問題での火中の栗を拾える状況にないとの判断がうかがえる。
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