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2010-03-26 00:00
郵政「閣内亀裂」の影に小沢の選挙戦略
杉浦 正章
政治評論家
郵政改革という最重要法案をめぐって露呈した閣内亀裂の最大の原因は、「事務次官会議の廃止」だ。まさに最重要事前調整機関を官僚憎さの一点から廃止し、半可通の首相・鳩山由紀夫が直接郵政改革相・亀井静香から話を聞いて、まんまと乗せられた図式だ。鳩山政権は、自分で落とし穴を掘って、自ら転落したことになる。鳩山だけではない、一緒に亀井と記者会見した総務相・原口一博も、全然問題意識がなく、うなずくばかりだったという。とても言われているほどの器でないことが判明した。裏には、亀井と民主党幹事長・小沢一郎の郵政票取り込み戦略がある。
亀井のやり口は、モラトリアム法案を打ち出したときと酷似している。まず大風呂敷を広げ、マスコミに公表して、流れを作り、あとで調整する。鳩山の了承を得ていたという話まで、そっくりだ。確かに3月23日に亀井が電話したとき、鳩山はおそらく「郵政問題は亀井に一任しているから」という感覚で、対応したのだろう。株式の3分の1を保持して事実上国営化し、預け入れ限度額を引き上げ、グループ内消費税の免除するという、民業圧迫の大問題にもかかわらず、鳩山はすんなりと認めたととれる相槌を打ったに違いない。その証拠に、反対の立場から国家戦略相・仙谷由人が首相に直談判をした際、鳩山は、閣議決定していたかどうかを秘書に尋ねるなど、全く状況を掌握していなかったという。要するに、分かっていなくて、亀井の言うがままに、」了承したと受け取れる対応をしたに違いない。仙石と財務相・菅直人の進言で、やっとことの重大さに気づいたのだ。鳩山がもし了承していなかったのであれば、亀井発言はとんでもない食言であり、首相の職務として亀井を罷免するくらいの対応が必要になるが、それをする気配はない。鳩山にも弱みがあるからだ。
亀井くらいの海千山千になると、鳩山を乗せるくらいはわけはないことであり、わざと電話で調整したのも、問題を軽く見せるためであったからにほかならない。鳩山が「本来なら発表すべき問題ではなかった。調整前に発表したのはまずかった」と述べたのも、語るに落ちた発言だ。この亀井独走の狙いはどこにあるのか。いや独走とは言えまい。ここにも民主党幹事長・小沢一郎の影がある。参院選挙に向けた郵政票30万票の確保だ。もともと小沢と亀井は、昨年の総選挙前に全国郵便局長会会長・浦野修と会談し、選挙協力で合意している。「郵政票」が野党共闘に流れることになったのだ。合意文書では、民主党が政権獲得後に郵政民営化の抜本的見直しに取りかかることを確約している。その約束を果たして、参院選向けに郵便局の組織をフルに活用しようという狙いだ。小沢自身が25日には「国民新党の党首も閣僚の一員なのだから、ぜひ政府部内で早くまとめて、合意出来るよう願っている」と発言、亀井支持を示唆している。特定郵便局長の活用は、田中角栄の打ち立てた選挙戦略であり、小沢はその活用を狙っているのだ。
一方、この閣内亀裂で政権の危機管理能力の危うさが白日の下にさらけ出された。本来なら、事務次官会議であらゆる法案の事前調整が行われ、問題点は首相に報告され、首相の指示を得て再調整するのが、歴代政権の常であった。ところが脱官僚の象徴として鳩山は、小沢の意向もあり、事務次官会議を廃止してしまったのだ。これはとりもなおさず、政治家自身が調整に当たらなければならないことになる。最強の頭脳集団を除去し、適性に欠ける政治家が、重要政策を電話一本で決めたらどうなるか。「郵政迷走」の原因ははまさにこの一点に尽きる。おそらく該当する事務次官らは、内心「それ見たことか」であろう。問題は内政だけではない。国の存亡にかかわる外交・安保上の問題でも、同様の事態が発生しうるということだ。危機管理の盲点がここにあることが分かった。亀井は当面突っ張るだろうが、連立を離れるほどの度胸はない。郵政迷走は、小沢の選挙戦略が背景にあるだけに、小沢も陰に陽に政治決着に持ち込む動きを見せるだろう。
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