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2010-02-07 00:00
アメリカの企業倫理と「強欲」批判
池尾 愛子
早稲田大学教授
アメリカ経済学会(AEA)の2010年アトランタ大会では、ヨーロッパの金融経済に関するセッションが幾つか組織されたことを、本掲示板にて1月10-11日に紹介した。「金融危機の唯一の震源地はアメリカであったとは言い難い」として、ユーロ圏の住宅価格などの時系列データを提示して、「ドイツでは統一バブル、スペインでは著しい建設バブル(住宅バブルを含む)、他の諸国では住宅バブルがあり、いずれもはじけた」と分析したのは、欧州政策研究センター(Center for European Policy Studies、CEPS)のダニエル・グロス氏であったことを追記しておく。CEPSは1983年にブリュッセルに設立されたシンクタンクである。彼の発表「なぜヨーロッパは(アメリカより)苦しむのか」と同じタイトルのワーキングペーパーが、CEPSのウェブサイトに掲載されている(CEPS Policy Brief, No. 194/16, July 2009、http://www.ceps.eu/)。
グロス氏は、経済協力開発機構(OECD)提供のデータを利用して、ヨーロッパ各国においても、金融危機の原因となりうるバブル現象が見られていたことを示したのであった。彼は、スペイン、フランス、イタリアなどの住宅価格と家賃の相対価格が、1998年頃から上昇し始め、2007年から2008年初めにかけて最高値を示して、2008年後半には下降していたのである。スペインの相対価格の上昇が最も急激で、ピーク時には上昇開始時点の1.8倍以上になっていた。それに対して、ドイツの同相対価格だけは当該期間中、緩やかに下降していた。彼の分析によってヨーロッパの金融経済問題の一端を概観することができるが、より広範でさらに綿密な分析も必要であると思われる。
AEAアトランタ大会では、金融経済問題の深刻さを反映して、関連セッションが充実していたようだ。別に皮肉ではない。「強欲」批判も複数セッションで聞いた。ローラ・ナッシュ氏(ハーバード・ビジネス・スクール)の『アメリカの企業倫理』(小林俊治・山口善昭訳、日本生産性本部、原著1990年)などを読むと、ビジネス倫理上の「強欲」問題は1980年前後から注意を引き始めたようだ。当初は、「強欲」に駆られて違法行為を犯したり、不祥事を引き起こしたりしたことが問題となっていた。言うまでもなく、熱心な利益追求それ自体は問題のない自然な行為であり、うまくいかなければ、自社の株価が下がったり、破綻したりすることによって市場から罰せられるのである。
しかし、自社が「ツー・ビッグ・ツー・フェイル(TBTF、「大きすぎて潰せない」)」と感じられ、苦境に陥っても公的緊急融資(bail-outs)が受けられると期待されると、「強欲」に歯止めが効かなくなるのではないか。「彼らは、TBTFである」と感じられたとき、資金提供者もまた「強欲」になるのではないか。「強欲」とTBTF問題が重なると、システム自体が不安定になりうるのではないか。年初からアメリカ政府が金融規制に向けて方向転換しようとするのを見ると、両者への懸念が感じられるのである。
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