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2010-01-11 00:00
(連載)バーナンキ米Fed議長の海外貯蓄過剰論(2)
池尾 愛子
早稲田大学教授
(3)「今回の危機の処理からわかったこと」も幾つかあった。2008年3月に経営危機に陥った米投資銀行ベア・スターンズが救済された件について、相当数の経済学者から「道徳的陥穽」(moral hazard)の問題が発生する可能性を危惧して、批判の声が激しく上がっており、9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻の前日あたりまで続いていたようだ。しかし、それは非公開会議の席上での発言で、市場参加者たちは感知しておらず、同じくリーマンの取引も誰かが引継ぐものだと信じ切っていたとのことであった。リーマンが破綻すると、リーマン傘下のコンピュータ会社の電源が切られて、取引は止まり、また海外子会社の資産について、イギリスとオランダで破綻処理の手続きが異なって、処理が容易ではない等の事態が判明したのであった。日本にも伝わっていたと思うが、アメリカ政府は、3月時点では法的手続き上、危機に陥った金融機関は救済するほかなかったのに対して、9月時点では、連邦破産法第11条適用に踏み切れる準備が整っていた、と説明している。詳細な議論を行ったのは、複数セッションにまたがるが、カシャップ氏、アラン・ブラインダー氏(プリンストン大学、元IMF、元Fed)であった。もっとも、リーマン破綻の海外への余波は、彼らの予想をはるかに超えていたようだ。ブラインダー氏はツー・ビッグ・ツー・フェイル(TBTF、「大きすぎて潰せない」)の問題ではなく、ツー・イントリケイテド・ツー・フェイル(TITF、「複雑に絡み合っていて潰せない」)の問題を議論すべきであろうとした。
(4)金融危機はまだ終息していない。アメリカでは、中小の金融機関の破綻がまだ続くことが予想され、住宅債務を抱えて沈みかけている人たちがいることが指摘された。金融派生商品CDSの清算機関を創設することが、ティム・ガイトナー米財務長官と外国の政府から提案されており、これは必要な措置である、との見解も示された。ヨーロッパの金融経済についてのセッションが、ブラインダー氏の尽力で幾つか組織されていた。ユーロ圏をみると、ドイツでは統一バブル、スペインでは著しい建設バブル(住宅バブルを含む)、他の諸国では住宅バブルがあり、いずれもはじけた、とヨーロッパの経済学者によって分析された。さらに、社会保障制度が整った国々では雇用は確保されているものの、その分調整は遅れ、回復にも時間がかかる見通しが示された。ヨーロッパ関係では、欧州中央銀行(ECB)の活動が一般に理解されておらず、わかりにくいと感じられた。ECB設立以前には、ブリュッセル近郊のルバン・カトリック大学あたりから金融政策情報が伝播していったようであるが、ドイゼンベルク前総裁を含む前ECB理事会メンバーは大学などで教えず、公的発言も控える方針を採っている、と以前に聞いたことがある。日本については、財政赤字の水準が持続可能ではない、との指摘が出ていた。
(5)「なぜ経済学者はこの危機を予期しなかったのか」と題するAEAパネルセッションがあった。ロバート・シラー氏(エール大学)は「この金融危機を予期した経済学者たち」のリストを作成し、ビジネス経済学者たちと自分を含む12人の名前を挙げた。他のパネリストでは、トーマス・サージェント氏(ニューヨーク大学・スタンフォード大学)は予期しなかったようだが、ポール・クルーグマン氏(プリンストン大学)とラグラン・ラジャン氏(シカゴ大学)はそうでもなかったようである。そのほかに、ジョセフ・スティグリッツ氏(コロンビア大学)の「ホモエコノミカス:経済危機の経済理論への影響」と題するASEセッションでの講演では、彼がこの危機を予期していたことが漂っていた。危機を予期した理由は共通していて、「住宅価格の上昇は永久に続くわけではない」との認識に尽きる。裏を返せば、「住宅バブルが起こっている」という認識を持たなかった経済学者がたくさんいて、経済学者の間で認識・予想が食い違っていたことになる。しかも、政策を決定し実行するのは、政治家であり、経済学者ではない。経済学者たちの間で見解が異なっている、と政治家たちを説得することはできない。また、ウォール街で働いている卒業生たちに対して、「君たちの給料は高すぎる」「君たちは欲張りだ」と言ったという教授もいたが、彼らを納得させることはできなかったようだ。2007年のアメリカのGDPに対する金融部門の寄与度は40%だったとのことである。繰り返しを含むが、海外への余波が予想外に大きかったことを認識して、危機の発生を密かに予測したことについて、歯切れの悪くなっている経済学者もいるようである。(おわり)
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