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2009-12-21 00:00
渡部発言に「反小沢」党内政局の萌芽
杉浦 正章
政治評論家
「おれがバンバン言うときが来る」と述べながらも、鳩山政権人事で完全に干されて、ほぞをかんでいた元衆院副議長・渡部恒三が、民主党幹事長・小沢一郎と正面切った“対決姿勢”を示し始めた。小沢批判の発言だけでなく、小沢と距離のある党幹部・閣僚との会談など、“反小沢”とも受け取れる動きも見せ始めた。政界水戸黄門、気骨の「会津っぽ」である。歯にきぬを着せぬ小沢批判は、天皇改憲問題をはじめ、大訪中団など、まさに「することなすこと」に及んでいる。小沢の一極支配で、まるでふが抜けたようになっていた民主党議員の間で、初めての反主流の動きとして定着して行く可能性がある。小沢の独断専行的な“政権運営”は、とても自民党政権時代だったら不可能であろう。とりわけ天皇改憲問題での一連の言動を自民党総裁が行っていた場合には、とっくに政局化していただろう。必ず批判の動きが出て、派閥抗争という名の党内民主主義が曲がりなりにも台頭するのが通常だった。ところが、総選挙は小沢の力量と言うより、国民の「反自民感情」という“風”によって、勝ったにもかかわらず、なぜか小沢神話が定着して、党内がすくんでしまっている。そこに渡部恒三発言は、意図したものか、特有の気骨がなせる業か、新風を吹き込んでいる。党内は「恒三さんよく言ってくれた」と評判が高い。
渡部の小沢批判は多岐にわたっている。幹事長室の“陳情独占”に関しては、「自民党時代党税調副会長だったが、この時ほど陳情で頭を下げられたことはない。陳情が政治家の権力を作った。それを知っている小沢君は、幹事長室に一元化させた」と述べるとともに、「一般議員はすることもなくて、うちに帰って戸別訪問でもしていろ、と言うことか」と批判。先の臨時国会での強行採決についても、「まったく意味のない徹夜の大騒ぎ。国民の皆さんに恥ずかしいし、申し訳ない」と国会運営を批判。北京への超大型小沢訪中団については、「北京に大勢連れて行って、テレビに出て喜んでいる」。そして天皇会見問題では、「国民の一人として天皇陛下に申し訳ない」と述べ、強く小沢のスタンスを批判した。批判は小沢の政治姿勢にまでおよび、20日のTBSでは「41年間付き合っているが、小沢君はこの10日間で変わった。パフォーマンスをしないで、田中、金丸、竹下に信頼された。その小沢が小沢ではなくなった。普通のおじさんになった」とこき下ろした。
一連の発言は、特有のユーモアを交えているから、どぎつさが感じられないが、相当の反小沢感情が背景にあることが分かる。ここに来てなぜなのか。第一の原因には、まず最初に小沢からの「渡部外し」の仕掛けがある。西松疑惑で秘書が逮捕された際に、小沢を追い込んでいったのは、やはり渡部だからだ。辞任後の代表選挙でも、裏でかねてから目をかけていた岡田克也を推したと言われている。その仕返しが渡部に一切の役職を与えない露骨な人事となったわけだ。おそらく渡部は怒り心頭に発していたに違いない。その怒りが爆発しての言動となったのだ。渡部は党内政局について、「周辺の者から、次は小沢内閣だなという声も聞く」と漏らしている。筆者も小沢周辺から、「次は岡田でなくて、自分だ」と言う説を聞いており、符合する。小沢が手を挙げる可能性は否定できないというのだ。そうした中で、小沢が訪中で留守にした折も折、「民主党7奉行」と呼ぶ同党中堅のリーダー格と、渡部は10日夜会合の席を持った。
小沢と距離を置く外相・岡田克也、国土交通相・前原誠司らとの会談は盛り上がったようだ。政局の話はなかったとされるが、直接的な話しはなくても、集まっただけで意味がある。政党でも、社内抗争でも、最初は集まることに意味がある。小沢独裁に対して、よく言えば“党内民主主義”の、悪く言えば“党内政局”の芽生えが始まった、と受け取った方がよい。かって幹事長・田中角栄が沖縄返還選挙で圧勝、自民党が選挙後入党も含めて300議席に達したとき、筆者に「300ではまとまらない。270程度が一番しまってやり易い」と漏らしていた。天才田中ですらそうなのだ。ましてや小沢では、衆院308議席の統御は断言するができない。小沢の独断専行が、海千山千の議員が308議席もいて、続くわけがない。むしろ議席が多すぎて手に余るから、小沢はいら立ち、独断専行に走るのだ。一見党内基盤は盤石に見えるが、力で押さえ込む手法は、くずれ始めると早い。渡部の言。「小沢君が5足す5は10と言っているときはいいが、5足す5が15と言ったら、ノーって言わないと、民主主義ではないんだな」。民主党も自民党と類似の派閥抗争が出てくることは避けられまい。それが議員集団というものであり、党内民主主義のためにはかえってよい。このままでは“小沢全体主義”に突入する。
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