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2009-12-03 00:00
新たな権力集中の構図は、「小・官・業」の癒着
杉浦正章
政治評論家
民主党幹事長・小沢一郎がついに“陳情”のすべてを掌中にした。政界における真の陳情対応とは何か。それは情報・人脈・資金・選挙を入手することだ。田中角栄の政治手法を要所要所で実践している小沢が、今度は幹事長室の“目白化”を実現したことになる。これによって小沢の権力闘争は完成の域に達した。「政・官・業」の癒着は「小・官・業」の癒着に移行することになる。自民党がいくら「権力の乱用で、やってはならないこと」(政調会長・石破茂)と批判しても、駄目だ。敗北とはこういうことだ。かつて目白の田中邸に朝駆けすると、おびただしい陳情客に遭遇した。バスで来る陳情団もある。田中はてきぱきと面会して、ものによってはその場で関係省庁に電話する。すべてを3分間で処理、ベルを鳴らして、「次ぎ」と言う。これを目の当たりにしてきた小沢は、陳情とパワーの関係をつぶさに読み取ったに違いない。小沢の「陳情の幹事長室一元化」は、昔政界実力者たちが行ってきた陳情処理を、幹事長室という一見“公式”の場にすべて統合、移行させたことになる。大変なパワーの移行だ。
小沢はかねてから「政策は政府に一元化する」と言明してきたが、陳情の幹事長室一元化とは、政府をこれによってコントロールできるということに他ならない。すべての陳情が小沢を通じなければ政府に伝わらないこととなり、小沢は「院政を確立」したことになる。政府に一元化どころか、幹事長室に一元化と言った方がよいことになる。小沢は12月2日の陳情判定会議でマニフェストに添った陳情仕分けを指示した。一見陳情を公的に公正に処理するように見えるが、ミソはかねてから「重要問題はすべて私を通すように」と指示していることだ。小沢と首相・鳩山由紀夫の直接のラインで密室の陳情処理があり得ると言うことだ。もちろん仕分け会議のような、ばかげた公開もしない。結果的には小沢が重要課題を自ら舞台裏で処理することを可能としている。ゼネコンとの癒着が常にささやかれる小沢である。誰もがその狙いが分かっている。幹事長室という公の場を活用して、狙いは別にあるのだ。
小沢は記者会見で「族議員への陳情は政・官・業の癒着の政治を生み出す大きな原因の1つだった」と述べているが、政治のプロから見れば「いけしゃあしゃあと、よく言うよ」ということだ。ゼネコン、土建業界と癒着した自らを省みて、発言すべきだ。一元化方式は新たな宝の山を入手したことに他ならないのだ。3日付の読売新聞によると、筆頭副幹事長の高島良充が「今までのことを簡単に水に流すことのできない知事さんも、業界の皆さんも、いる。『来年の参院選やってくれますね』というのは当然のことだ」と述べている。まさにそのものずばりの発言で、分かりやすい。第1の狙いは自民党と陳情側とのつながりにくさびを打ち込み、完全に断ち切ることだ。加えてもう一つの狙いは、資金調達と選挙支援にあるのだろう。「参院選やってくれますね」ということは、そういう意味だ。
こうして小沢の絶頂期が到来したことになる。小沢のすばしっこさには、とても谷垣禎一では対抗できない。自民党はただひたすら「高転びに転ぶ」のを待つだけだ。しかし陳情で民意を吸い上げるのは、民主主義社会における政治家固有の職務であり、権利だ。欧米でも全く抵抗感なく行われている。問題は族議員がはびこりすぎたことにあるのであり、族議員排除の方式を考えればよい。また従来族議員を経由しないで各省庁に直接陳情する方途もあった。小沢はこれすら封殺している。陳情をすることも、受けることも、すべて取り上げる権利が、一政党の幹事長にあることになる。すべて幹事長に集約するのは、小沢の強権政治の横行、権力の集中を認めることになる。官僚や法制局長官の答弁禁止の発想にせよ、一種の“小沢全体主義”ともいえる傾向が出て来ている。神を恐れぬ、天につばするような、小沢強権政治の横行だ。幹事長室一元化はいったん癒着の構図が表面化すれば、民主党を直撃する材料になる。やがて民主党内からも不協和音が生じ始めよう。それにしても近ごろの政治記者はだらしがない。小沢から記者会見で「諸君は頭の転換ができていないんだよ」と侮べつされて、「新たな権力集中の構図ではないか」と反論も出来ないでいる。
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