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2009-10-20 00:00
出来上がった八ッ場ダム「前原包囲網」
杉浦正章
政治評論家
1都5県の知事による八ッ場ダム建設中止反対声明で国土交通相・前原誠司包囲網が完成した。既に自民・公明両党党首は視察を終え、反対を表明しており、野党プラス知事の連携が出来上がったことになる。この流れは、臨時国会における前原追及に拍車をかけるだろう。これにたいして前原は「中止費用の方が高くなっても中止する」と頭から突っぱねているが、なぜ中止するかの理由は明確にしていない。「マニフェストにあるから」という当初の発言の域を出ていない。深く言及すれば、容易に反論され得るから逃げているとしか思えない。臨時国会ではまず前原の姿勢が追及されることになる。反自民の潮流だけで出来上がった政権の弱点は、政策で国論の一致を得ていないことにある。したがって政権成立後にほとんどの外交・内政上の重要政策で国論が割れ、政権側は説明のないまま全体主義的とも言える手法で強引に政策を実現しようとしている。その象徴が八ッ場ダムだ。
前原は就任早々マニフェストに書いてあることを理由に建設の中止を打ち出したが、いまだに中止の根拠を具体的に説明していない。したがって傑作なのは、中止支持の新聞論調だ。朝日新聞はいち早く「八ツ場ダム:新政権の力量を見せよ」とバックアップの社説の掲載したが、その内容を精読しても、中止の根拠が見あたらない。「政権が代わったことを国民が実感できるか。矢継ぎ早に新政策を繰り出す鳩山政権の力量が試されている」だけでは、支持のための支持で、愚論に過ぎない。鳩山政権のやることだから不偏不党の綱領に反しても、ただひたすら支持するということだろう。ちなみに朝日は他紙が知事らの動きを一面で報じているのに対して、社会面に追いやっている。そこまでして民主党を支持したいかということである。世論調査も割れている。中止支持が朝日49%、読売44%。不支持が朝日31%、読売36%でほぼ同数。傾向としては国論2分だ。
しかし野党の反対はさておき、1都5県の知事が国の政策に反対で結束した例はきわめて珍しい。知事は民意を得てその地位に就いているのであり、世論調査とは別の重みがある。知事らは前原が説明責任を果たしていないことを一致して指摘、治水治山の観点から推進論である。加えて中止の方が建設継続より費用がかかる点と、建設費用の半分を既に負担してきている点を強調する。読売や産経の社説の中止反対の根拠もここにある。前原は中止を貫く以上「マニフェストに書いてあるから」というマニフェスト教条主義以外に説明責任を果たさなければなるまい。
八ッ場ダムの場合はカスリン台風の猛威で、1900人の死者を出したのが建設の発端であり、その後の都市の発展をみると、死者がこれを上回らないとは限らない。大都市を襲った伊勢湾台風の死者数は5098人だ。民主党は10年に1度の単位でものを見るべきではない。百年に1度の単位で計画を立てるべきではないか。これを称して国家百年の大計という。おりから気候の変動は著しいものがあり、同党の外交・安保思想と同じく、平和と安全は天から降ってくると信じ込むべきではない。いずれにしても臨時国会では反対派、賛成派の激突となり、妥協は糸口も見出せないだろう。まあ、ここは民主党が赤字国債の発行と同じで、マニフェストを断念するしか道はあるまい。
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