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2009-09-24 00:00
「マニフェスト教条主義」に踊る鳩山内閣
杉浦正章
政治評論家
連休でもあり政権発足一週間の動きを黙って観察してみたが、冷静に見ても鳩山内閣は民主党のマニフェストの上で、タランチュラにかまれたかのように踊り狂っているように見える。あらゆる世論調査の結果が民主党の勝因をマニフェストではなく「自民党政治の否定」としているにもかかわらず、発足早々政府首脳らが「マニフェスト完全実施」を申し合わせ、閣僚が断行を意思表示している。はっきり言えば民意は「マニフェスト完全実施」にはないから、当然そこに発生するのは“違和感”のみだ。マニフェストと増税は不可分の関係にある点もあえて周知されていない。その重要ポイントに気づいていないマスコミと有権者は、やはりガバナビリティ(被統治能力)を問われるのだ。
政権発足以来財務相がガソリン税の暫定税率廃止、防衛相がインド洋給油活動停止、総務相が郵政民営化抜本的見直し、厚労相が後期高齢者制度の廃止、国交相が八ッ場ダムの建設中止、文科相が国立メディア芸術センターの廃止と言った具合に、矢継ぎ早にマニフェスト実行を打ち出した。このうちもっともだと納得できるのは後期高齢者医療制度廃止くらいであり、後は民意に離反するか、国論を2分するものが圧倒的だ。ここで重要な点は、主要報道機関の世論調査結果に共通しているのが、民主党圧勝の原因が、自民党への不満に基づく政権交代にあることだ。NHKによると民主党が圧勝した原因は「自民党政治への不満」が52%で「政権交代への期待」が25% 。「民主党マニフェストへの期待」は10%で、読売の「政権公約評価」が10%と、同レベルだ。有権者はマニフェストなど熟読して投票していないのだ。
それにもかかわらず首相・鳩山由紀夫の“裸の王様”化が早くも始まった。国連演説で温室効果ガス25%削減の表明だ。これも国内の合意を経ぬままの突出だ。東京新聞が23日見事に実態をえぐった見出しをとっている。「国内合意なき首相公約」だ。読売も24日付の社説で「国内合意なき25%削減の表明」と疑問を呈している。どの国もちゅうちょする高削減率を打ち出せば拍手が湧くに決まっている。産経が「日本が高い目標を掲げれば、他の国は表向き拍手し、影ではひそかに笑う、といわれるほど厳しい世界だ」とこれも見事に実態を形容している。しかし鳩山は拍手に興奮気味で、「誓ったからはやる」と歌の文句ではないが、「もうどうにも止まらない」。主要国同調の“条件付き”がみそだが、数字は既に1人歩きした。社説も朝日、毎日、日経は礼賛型。読売、産経は反対で国論は割れた。産業界は工場の海外移転を検討せざるを得ないだろう。空洞化の傾向は強まり、税収はまたまた落ちる。
次ぎに「マニフェストに書いてあるから中止だ」と威勢よく、八ッ場ダム建設中止を打ち出したのが国交相・前原誠司。最初はまるで“突撃隊長”のようで得意満面だった。性格なのか、理解不足なのか、重要問題をあっけらかんと処理する。マスコミは朝日新聞が社説で「八ツ場ダム、新政権の力量を見せよ」とたたえ、毎日も「八ッ場ダム中止、時代錯誤正す象徴」ともろ手を挙げて賛成したが、読売は「民主党は工事継続も選択肢に」と慎重論で、完全に割れた。しかし社説の説得力はどうみても読売にあった。総工費4600億円のうち既に約3200億円が投入された工事を中止すればどうなるか。朝日によれば、前原は「これまでの地方負担金の利水分1460億円と治水分525億円を返還する」という。こんなばかげた政治があるだろうか。ローンが7割方終わった家が気にくわないと言って、ローンの残りを全額以上払ったうえで、火をつけて燃やすに等しい愚策だ。ようやく気づいた前原は、今度は光よりも早く方向転換した。「地元のの理解を得るまで、法律上の手続きを始めない」である。今後はこの発言がすべてを律する。地元などが理解を示すことは永久にないから、問題を長期化させることでとん走をはかったことになる。前原の任期中の決着はおぼつかない。もちろん前原の「中止の方針は変わりない」は取って付けた空念仏と化した。朝日と毎日は礼賛して完全に置いてけぼりを食らった形だ。民主党のやることなら何でも褒めればよいというものでもあるまい。
次に理解しているように取り繕っているが、財政への知識がいまいちの藤井裕久にいたっては、早々にガソリン税暫定税率廃止を打ち出した。しかし廃止にに伴う税収減はほおかむりだ。国と地方を合わせて約2.5兆円の減収となり、財務省にとってはタコが自分の足を食らうようなことになることに、気づいていないか、気づかないふりをしている。共同通信のアンケート調査では、廃止に賛同する知事は、全国でたった1人だったという。要するに民主党政権は、マニフェストを共産主義者の聖典「資本論」のようにあがめ始めたのだ。まさに教条主義だ。このような数々の施策の財源は、1年限りならともかく、とても恒常的に“節約”などで捻出できるものではない。CO2で国民1人あたり年間36万円、子供手当で扶養者・配偶者控除の廃止という増税、高速料金無料化で一人あたり24万円の負担増が必要となる。暫定税率の廃止も財源をどうするつもりだ。子供手当も高速無料化も受益者負担の原則から逸脱し、社会に不公平感をもたらすことも明白だ。加えて税収見通しも、当初予算で見込んだ46兆の達成はとても無理で、40兆を1兆程度割り込む公算が出て来た。血税で払うか、赤字国債を発行するしか方途はあるまい。有権者もようやく気づき始めており、こども手当について朝日の調査は反対が49%、賛成が31%、高速道路無料化も反対が65%となった。各種世論調査で「民主党政権への不安」が指摘されたことも的中しようとしている。
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