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2009-09-17 00:00
新政権、早々に「知る権利」侵害の動き
杉浦正章
政治評論家
新政権のスタートで国民挙げての「鳩山えらいやっちゃ」の阿波踊りが佳境に入ってきた。熱しやすく冷めやすい国民性の常とはいえ、民放テレビが象徴する持ち上げ方はあきれるばかりだ。小沢一郎の「院政」に関してすら、テレビ朝日のコメンテーターからは「二重構造なんて言葉を使っても仕方がない」(大谷 昭宏)という、メディアの批判を自ら規制する低レベルの発言まで飛び出している。しかし祖父に次ぐ「第2次鳩山ブーム」に浮かれているときではあるまい。「批判」で政権に就いても問われるのは「牽引力」だ。鳩山は記者会見で「試行錯誤の中で失敗もあろうが、ご寛容ねがいたい」と訴えたが、国政レベルでの失敗は許されない。“失政”の前から謝っていては、先が思いやられる。マスコミがらみでは「官僚の記者会見禁止」を打ち出すなど、知る権利侵害が早々と打ち出された。今後あつれきの種が目立ち始めていくであろう。
まず鳩山の発言自体は「思いつき」型であり、麻生太郎にまさるとも劣らないところがある。さっそく記者会見で、小沢一郎の第一秘書逮捕が逮捕されたとき「国策捜査」と発言した問題を問われて、「国策捜査という言葉を1度だけ使った。2度は使っていない。反省してその言葉を遠慮している」と述べた。相当あちこちで使ったように記憶しているが、問題は「1度だけなら良いのか」と言うことだ。荒船清十郎が運輸相の時、深谷駅を急行停車駅に指定したため世論の批判を受け辞任し、「1つくらいいいじゃないか」と発言、所属派閥の領袖・川島正次郎が「やはり野に置けれんげ草」と形容したことを思いだす。自民党首相の発言を、これまで鬼の首でも取ったかのように批判してきた張本人が、「1度だけ」はない。1度だけの発言が問われるのが政治家だ。官僚をまさに目の敵にして「脱官僚依存の政治」を唱えて、自縄自縛になるのは自由だが、いささか引っかかる政策を内閣発足早々に打ち出した。
閣僚懇談会で決定した「政・官のあり方」と題する指針だが、この中で「 各省庁の見解を表明する記者会見は、閣僚など政治家が行い、官僚は行わず、次官らの定例記者会見は行わない」と官僚の記者会見禁止を指示している。これは問題だ。記者会見禁止などの措置は、メディアが知る権利の侵害であると一番神経質に反応する。言論統制につながりかねないからだ。だいたいアバウトな副大臣あたりから話を聞いても、再取材が必要となるのは目に見えており、記者クラブにとっては重大な既得権侵害となる。加えて「政・官のあり方」は閣僚や副大臣、政務官以外の国会議員と官僚の接触を厳しく制限しているが、これも問題が生じそうだ。政官癒着を阻止しようとする狙いだろうが、それよりも野党議員対策となる方向が強い。自民党議員にしてみれば政府追及の資料を得るのも難しくなる。まるで民主党が野党時代に官僚から干された仕返しのようでもある。文書にして通達されては、官僚も動くに動けまい。初めて内閣が打ち出した政策がきわめて“抑圧的”であるようにみえるのは気になる。
閣僚の発言も統制が取れていない。金融・郵政担当の亀井静香が銀行への返済猶予(モラトリアム)導入を打ち出した危険性を昨日指摘したが、案の定金融株が軒並み下落だ。江戸時代のような“徳政令”をやって金融の秩序が保てるのだろうか。財務相・藤井裕久の為替介入に否定的な発言も円高を進めた。ウォール・ストリート・ジャーナルの懸念を反映したものだ。 新聞論調は、浮かれ気味のテレビに比較して、冷静に見ている。朝日新聞は9月17日付社説で「期待は、たやすく幻滅に変わる。新首相自身が重々自覚しているように、必ずしっぺ返しがくる。変化への願望に答えを出せなければ、民意は本当に冷え込むことになる」と警告。読売も「行き過ぎた変革が混迷をもたらすのではないかと、国民が不安を感じているのも事実だ。歴代政権が積み重ねてきた日本の進路にかかわる基本政策は、継続する冷静な判断が大切だ」と説いている。満月はやがて欠ける運命にあるが、まずは年内予算編成が可能かどうかで力量を問われ、鳩山の虚偽献金、小沢の「西松疑惑」の国会追及でダメージを受けるだろう。
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