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2009-09-06 00:00
(連載)自民党に明日はあるのか(4)
水野 勝康
特定社会保険労務士
「健全な野党」としては、本来ならば政策で勝負すべきである。実際、単純にどぶ板だけやれば当選できると言うものではない。今回の総選挙で当選した民主党の新人議員も、確かにどぶ板をやっていた者は多いものの、有権者は投票にあたって政党名やマニフェストをそれなりに重視している。党の政策は重視されたが、個々の候補者の政策はそれほど問題にならなかった。ここから言えることは、どぶ板にプラスして、自民党が政党として魅力的な政策を打ち出せるかどうか、が問題になるということである。私は個人的には、候補者の政策や人柄も含めて選挙では判断されるべきだと考えている。しかし、これは理想でしかない。現実には政策は、マニフェストとして党本部が作る。人柄にしても、一般有権者が知るのはほとんど不可能だ。現実には、候補者の個性はかつてほど重要視されなくなってきているように思われる。つまり、それだけ党本部が打ち出す政策が重要な要素を占めると言うことである。
自民党の政策立案は、従来は官僚に頼る部分が大きかった。官僚が作ったものを、自民党の政務調査会や各部会で調整し、それが政府案として国会に提出され、可決されるというのが、一般的な流れであった。ところが野党になった以上、官僚に頼った政策立案をすることは、不可能である。議員、秘書、党職員などが政策立案を担わなければならなくなった。しかし、自民党議員は衆議院119、参議院81であり、公設秘書を含めても800人である。党本部の職員は200人ほどいるが、この人数を維持するのは資金的に無理である。議員や政党の日常的な政治活動も考えると、純粋に政策立案に携われる者はほとんどいないのではないか。野党としての政策立案のシステムは、これから自民党が整えていかなければならない最重要の課題であるが、それが容易ならざるものであることは、誰にでも分かる。
また、自民党の政策は民主党と同じく一枚岩ではない。経済政策では社会民主主義的な考え方から新自由主義的な考え方まで、安全保障ではハト派からタカ派までが同居している。従来、自民党は民主党を「安保政策が統一されていない」と批判してきたのだが、これがそっくり自民党に跳ね返されることになる。意思統一をするのは簡単ではない。現在の選挙制度を考慮すると、自民党が分裂し、あるいは離党者が続出して、消滅すると言うことは考えられないが、一方で再度の政権交代を実現するのは、容易なことではない。しかし、自民党が「政権交代可能な野党」にならなければ、かつての55年体制のような不健全な政治に陥ることになるだろう。自民党の明日は、今後野党としていかなる戦い方をするかにかかっている。容易なことではないが、「明日はない」と言い切ることもできない。政権復帰するまでに、台湾の国民党は8年、韓国の保守勢力は10年かかっている。台湾も韓国も大統領制で、与党側は選挙の時期を自由に動かすことはできない。
これに対して日本は議院内閣制であり、解散権は総理大臣の伝家の宝刀と言われている。つまり、与党の都合のいい時に解散できる。こうなると、野党は不利である。イギリスの保守党は1997年に下野してから未だに政権復帰できていない。イギリス保守党の下野は、新自由主義政策による格差拡大、長老支配による党組織の高齢化など、日本の自民党の下野と共通するところがある。イギリス保守党は下野後長らく低迷し、党勢が回復してきたのは2005年に39歳のデービッド・キャメロンが党首に選出され、2006年の統一地方選挙に勝利してからのことである。キャメロン党首は下院議員2期目、イギリス国王ウィリアム4世が妾に産ませた子の子孫であるが、もちろん父親から選挙地盤を引き継いで当選した世襲議員ではない。イギリス保守党は下野から12年で、ようやく労働党を支持率で追い抜き、政権交代の可能性が高まってきている。
最近の総選挙では「風」によって勝敗が決することが珍しくない。4年前の民主党の惨敗を見て、現在の政権交代を想像できた者は少ないであろう。その点では、風次第では次の総選挙で再度の政権交代が起きるかもしれないし、風がなければ民主党政権が継続するかもしれない。予測困難である。ただ、次の総選挙のとき自民党に風が吹くという保障はどこにもない。自民党は来るかどうかわからない風に期待するよりも、政権復帰には十数年かかることを覚悟し、長期的な視野で地道に政権奪還を進める必要がある。もし風次第で再度の政権交代となれば、民主・自民の二大政党は、ここぞというとき以外は努力しなくなるのではないだろうか。(おわり)
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