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2009-08-05 00:00
クリントン訪朝の背後に中国の影
杉浦正章
政治評論家
北朝鮮が仕組んだ“人質作戦”に、米国があえて乗ったのはなぜか。オバマ政権が元大統領・クリントンを使って、北を核問題での交渉の場に引き出すための賭けに出たからにほかならない。背景には中国の影響が色濃く感じられる。女性記者2人の釈放などは当然のこと、今後の焦点は、核問題で打開の糸口が探れたかどうかである。いずれにしても北はクリントンという大物の訪朝を実現させてメンツが立ったことになる。米国に強い影響を与えたと見られる中国も、もちろん歓迎姿勢だ。北は場合によっては“日米韓へのくさび”に成功するかも知れない。したたかな国際外交に、またも日本は置いてけぼりの危機に瀕している。
クリントン訪朝について米政府は「個人の資格での訪朝」と位置づけているが、とんでもない話だ。「ニューヨーク・チャンネル」と称する国連での裏交渉や中国との話し合いで、練りに練った訪朝である。事実上の「大統領特使」的な意義付けができるものであろう。北の巧妙な仕掛けは、米朝対話に向けて女性記者を3月17日に逮捕したことから始まっている。越境に誘い込んだと言う説があるが、恐らくその通りであろう。得意の拉致・人質作戦だ。これで米国を揺さぶる材料ができ、次は大物の訪朝を狙って、ゴア元副大統領やニューメキシコ州のリチャードソン知事の訪朝を拒み続けた。当初から狙いはクリントンにあったのだろう。1994年のカーター訪朝の成功で味を占めているからだ。
6か国協議議長国として、中国も北との対話を米国に働きかけている。6月の米国務副長官・スタインバーグ訪中で対北強硬姿勢を取らないように説得。これを受けて米国は、国連での北との接触の結果も踏まえて、国務長官の7月10日の北への“恩赦”要請発言をするに至っている。強硬姿勢を転換して、北の主張に膝を屈した発言だ。加えて注目されるのは、7月末の米中「戦略・経済対話(SED)」だ。ここで北朝鮮問題が話し合われなかったはずがない。あらゆる状況証拠は、中国が国務長官・クリントンに対し「北朝鮮は政権移行期にあり、軍部を刺激することは危険だ」と繰り返し説得したに違いないことを物語っている。そしてこれが米政府をして「元大統領派遣」を決断させるに至ったのだ。元大統領の個人的判断などではさらさらあるまい。
しかし、誰もが感じるのは「まただまされに行ったのではないか」という点だ。北の外交は、大小さまざまなだましのテクニックに満ちあふれている。カーター訪朝は「米朝枠組み合意」に向けての歴史的転換の流れを作ったが、その後のKEDOで国際社会はだまされた。ブッシュ政権も、後半で日本を見捨てて、北に接近して、だまされるといった具合だ。国際常識の通じない小国に、米国を筆頭とする国際社会は翻弄され続けている。金正日との会談では「共同の関心事となる諸問題について、幅広く意見交換した」という。裏で話がついている女性記者の解放問題などは付けたりであり、問題は「共同の関心事」の中身だ。核問題での打開の糸口はできたのか。それは北の主張する米朝「2国間交渉」先行か、「6者協議」への復帰かなど、である。二者択一ではないかも知れない。米朝交渉を6者協議につなげる流れが出る事も予想される。いずれにせよ北の狙いは、日米韓にくさびを打ち込むことだろう。米中ペースで事が運んでおり、要警戒であることは言うまでもない。しかし、日本が国内政治で混乱していることは、国際外交の舞台でも後れを取ることになることを証明しつつある。
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