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2009-07-27 00:00
(連載)リーマン・ブラザーズ破綻をめぐって(1)
池尾 愛子
早稲田大学教授・デューク大学シニア・フェロー
渡米前、アメリカでの政策形成は、政府、議会、メディアなどが微妙な関係を展開しながら行われるので、日本にいるとその様子がわかりにくく、政策の専門家でも公にコメントすることは控えることになる、と聞いていた。しかし、経済学の知識がある人がアメリカにいれば、だいたい的確なコメントできるだろう、とも聞いていた。その通りだと思う。メディアとしては、全米公共放送(NPR)と、民間メディア(テレビ局)がそれぞれの役割を果たしている。地元の経済学者たちにとっても、NPRは重要な情報源である。ただ、昨2008年秋の金融危機が進行した折には、彼らは政策を専門にするか、あるいは、政策情報源に近い他の経済学者たちのブログを追っかけていたのが印象的であった。日本でも同様な行動をとっていた経済学者たちがかなりいると思われ、私も時折ブログを覗くことになった。
その過程でわかってきたことの一つは、政府の委員会に入りそうな経済専門職は、テレビやラジオでのコメントを断っていたり、ブログの執筆を止めたりしていることだった。アメリカと海外とで報道に大きな落差があったのが、9月15日の投資銀行リーマン・ブラザーズの連邦破産法第11条の適用申請の一件である。本欄9月22日付「『サブプライムローン問題』三考」は、アメリカでの議論を注意深く追ったものであった。17日には、当局が協力したような金融問題の特別番組を、あるケーブル・テレビ局が流し、同行の破綻で金融問題の処理は終了するかのような印象を与えたのである。貪欲批判もこの頃に始まった。しかし、2-3日遅れで届いた日本の経済新聞や急いで閲覧した各新聞サイトには、「リーマン・ショック」の文字が躍っていた。
日本の事情を訊かれて、リーマン・ブラザーズがアジア等で保有していた資産を中心に取引が止まっていると報道されていると応えた。「Credit market is frozen」(信用市場が凍結状態にある)ということなのか、といった反応が返ってきた。この表現は英フィナンシャル・タイムス(FT)ではよく使われたが、アメリカ国内メディアではなかなか登場しなかったのではないかと思う。そして、金融・経済危機が進行したのであった。リーマン・ブラザーズ破綻後の「信用市場の凍結問題」が公開の議論の中心に置かれたのは、2009年1月3-5日のアメリカ社会科学連合(ASSA)の年次大会の折であった。大会初日の金融問題のセッションは込み合っていた。この時点になると、景気後退を明示する各種の時系列データが利用可能になっていた。
金融派生商品CDS(Credit Default Swap)とCDO(Collateralized Debt Obligation:サブプライム・ローンが関係する)の仕組みや相違は、セッションの合間にも経済学者たちの話題になっていた。一般の経済学者にとっては未知のものだったのである。CDSなどは当事者たちにとって保険のような役割を果すようにも見えるが、リスク(望ましくないことが起る確率)をプールするというわけではないので、社会的にみれば保険とは全く機能が異なっている。社会的には、リスク愛好家がハイリターンを賭けて積極的にリスクを取ることによってのみ成り立っているといえよう。ASSA大会には海外からも経済専門職のリクルート目的などで来ている人たちがおり、アメリカ(当局・金融機関)に対して、後に明らかになってくる一様な感想が共有されていることが感じられた。(つづく)
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