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2009-07-06 00:00
オバマ大統領のカイロ大学演説を読む
石川 純一
フリージャーナリスト
「テロとの戦い」などをアラブ・イスラム圏に押しつけて極めて評判が悪かったブッシュ前政権に代わり、「新たな関係再構築」を目指して動き出したオバマ米大統領だが、6月3日のサウジ訪問を手始めに、6月4日にはエジプトの首都カイロを訪問し、同地のカイロ大学では「世界のイスラム教徒と米国との新たな(関係の)始まりを求める」旨を骨格とする大演説をぶった。他方、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは6月3日、国際テロ組織アルカイダ指導者ビンラディンのものだとする録音テープを放送したが、そのテープは、オバマ大統領がサウジに到着した直後発表されたもので、テープの中でビンラディンとされる人物は、パキスタンでの武装勢力掃討作戦を米国の「命令」であると主張し、同大統領が「米国への憎しみと報復の新たな種をまいている」と非難した。
ブッシュ前政権の対イラク政策を強く非難してホワイトハウス入りしたオバマ大統領だが、「テロとの戦い」に関しては「完遂」することを確約しており、クリントン国務長官ともども、この点では米国の政策に揺るぎはない。ビンラディンが生きていればの話だが、オバマ大統領とビンラディンの最初のジャブの応酬がここに開始されたわけだ。はるか東方では、北朝鮮がミサイルをぶっ放すし、剣呑な世界ではある。それはともかくとして、オバマ大統領はカイロ大学での演説で、インドネシアというイスラム世界で育った自分の体験を踏まえ、互いの差異より共通点に目を向けて、「パートナー」として世界の平和と繁栄に責任を果たそうと呼びかけて、「相互の利益と敬意」に基づく関係強化を強調した。
その上でオバマ大統領は、イスラエルを名指しして、「パレスチナ人の苦しみが続く現状は認められない」と断言した。パレスチナ側に暴力放棄を求める一方で、イスラエルの占領地におけるユダヤ人入植地建設は「受け入れられない」とし、双方に自制と譲歩を要求した。また、占領地の返還などと引き換えに、イスラエルとの関係正常化を提示したアラブ側の和平構想(アブドラ・サウジ国王が2002年に初めて提示)を「重要な出発点」と評価した。さらに、イスラエルが極めて危惧するイランの核問題では、イランに対し、核問題などでの無条件の対話再開を呼びかけて、「中東での核軍備競争を防ぐ」ことを改めて主張した。その上で、同大統領は、核拡散防止条約(NPT)の枠内での原子力の平和利用に関しては、イランがこれを追求することに「反対しない」旨を宣言した。
また、民主主義、女性の権利、言論の自由や宗教の自由などへの強い支持も表明した。アラブ各国独自の改善への取り組みを尊重する姿勢を示した。このようなカイロ演説だが、米国の対中東政策を披瀝したというよりも、オバマ大統領自身の、仮に「文明の衝突」なるものがあったとしたら、それをいかに食い止めるかの意欲表明に近い。政治性よりも倫理的、哲学的側面が目立つものだ。「その言やよし。では具体的にどうするのか?」という点が、今後とも問われているわけだが、この面では依然として不透明である。
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