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2009-06-15 00:00
語るに落ちた鳩山邦夫の私闘
杉浦正章
政治評論家
どっちもどっちだが、あえてどっちが悪いかと言えば、鳩山邦夫の方が悪い。自らの選挙運動のために盟友を窮地に追い込むというのは、尋常な神経ではない。首相・麻生太郎は、自分の決断力のなさで、なすがままに引っ張られて、最後は「支持率喪失」を取るか「政局」を取るかまで追い詰められた。結局「支持率喪失」を取らざるを得なかったのだ。まさに自業自得であった。しかし、麻生の決断で自民党は少なくとも当面の“政局”は回避した。鳩山も、どこかの評論家が言っているように離党・新党結成はしまい。選挙運動が成功したからだ。当欄で、あらゆる論調に先立って、日本郵政社長人事問題での麻生の優柔不断ぶりを指摘したが、鳩山辞任後になって、全ての新聞論調が足並みをそろえて麻生の決断力のなさを批判している。
朝日が「火事が広がっているのに、火消しを決断できない。そんな首相の優柔不断は初めてではない」と書けば、読売は「事態がここまでこじれたのは、首相が指導力を発揮せず、土壇場まで鳩山氏と西川社長の対立を放置したため」。毎日も「煮え切らない態度を取ってきた首相の決断力の欠如が改めて明らかになった」。首相という職業は閣僚が不適切とみたら、世論に先んじて切らなければならない。その判断力が欠けているのだ。しかし、鳩山弟に比べれば、麻生は人がよい。筆者は、最初から「郵政人事は鳩山の私闘」と指摘してきたが、自民党政務調査会長代理・園田博之だけがことの顛末を見事に締めくくっている。6月14日のNHKで園田は「鳩山さんは、盟友であるのに麻生首相を困らせて、自分は正しいと主張したが、これは私の政治家としての生き方からすれば残念に思う」。言葉は柔らかいが問題の本質を突いている。「私闘」とみているのだ。
永田町の見方は、おおむね選挙に弱い鳩山が、麻生を使って自分の選挙運動をこなしたというところのようだ。鳩山が、本来ならば極秘裏に調整すべき人事を、テレビメディアに向かって語りかけ続けたのはなぜか。中身を明らかに出来ない「正義」という抽象論を先行させて、なぜ法律の専門家で構成する第3者委員会の見解「経営判断として許容される裁量の範囲内」を無視し続けてきたのか。日経が社説で「鳩山氏は西川氏を更迭させる明確な根拠を最後まで示さず、その主張に説得力はなかった」と指摘しているとおりである。産経も「所管大臣としては、まずは問題点の改善指導を優先すべきではなかったか」と批判している。元首相・安倍晋三が14日、問題を「正義と悪の対決ではない。民営化された会社がきちんと経営できるかどうかの問題だ」と「正義」を振りかざした鳩山を批判しているが、もっともだ。要するに、背景に思惑があったのだ。
語るに落ちたのは、辞表を提出したすぐあとに、選挙区の福岡県久留米市に入ったことである。支持者を前に、日本郵政社長の更迭を求めて麻生と決裂した経緯を説明、泣かんばかりに理解と支援を訴えた。朝日によれば「あんた間違っていないよ」などと激励の声が飛んだという。見事に大衆の心をとらえ、選挙運動が成功したことを物語っているのだ。どうも鳩山は、忘れ去られて久しい元行政改革相・渡辺喜美とメディア戦略において似ているような気がする。党より組織より自らの利益のためにメディアに露出し続けるのだ。自民党内は「郵政政局にするぞ」とばかりに“逆毛”を立てていた中川秀直も収まり、さざ波は残るものの、政局への波及は当面回避された。反面、都議選の結果によっては何が起きるか分からないし、みのもんたに象徴される大衆誘導型テレビ報道に絶好の餌を与えてしまったのも確かだ。支持率の大幅低下は始まっている。政治状況は何があってもおかしくない寸前暗黒のまま推移するとみた方が良い。
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