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2009-06-01 00:00
インドに期待するもの
岩國哲人
衆議院議員
インドが私たち日本人には、1万キロも離れた遠い国というよりも、小さいときから何か近くにある国のように思えるのは、仏教の発祥地であり、日本人の殆んど80%が仏教徒であることに、インドとの親近感があるのではないか。特に地方では神道信仰と仏教信仰が神仏混淆政策の影響か、もともと日本人の精神構造にはまりやすかったのか、共存共栄、重複している世界でも珍しい国。二教の信者数の合計がその国の人口の2倍近いというのは、日本だけである。その仏教発祥の地インドには日本をはるかに上回る数多くの仏教信者がいると思えるのだが、これが大まちがい。
日本をはるかに上回るどころか、はるかに下回る800万人、人口比率で日本の80%に比べわずか0.8%に過ぎないから、現状だけをとらえれば仏教大国ではなく仏教小国と言わざるを得ない。とは言いながらも、インドの知識層、指導者層にも仏教の価値を評価している人は多く、先日お会いしたインド経団連の幹部たちも、「インドから日本が受けつぎ、大きく育てた仏教を、インドへもっと大きくした形で持ち込んでほしい、返してほしい」と、両手を広げて熱弁されたのが印象に残っている。それだからこそ、世界の平和問題における我々日本人のインドへの期待も大きいのだ。インドのネール首相は1957年、訪日の際の演説で「とくに大国の大量破壊兵器の貯蔵は世界平和に重要な危険をまねくものと確信している」、「相携え世界平和へ」と述べ、はっきり軍縮と世界平和への協力の固い決意を述べておられる。
そのインドが、核兵器開発と保有に踏み切り、ネール首相から50年経過した2008年のシン首相訪日の演説では、軍縮にも核兵器廃絶にも全く一言も触れられることがなかった。シン首相との会合で私は、人類を破滅させる2つの大量破壊兵器として「核兵器」と「欲兵器」を挙げ、「核兵器」を持つ「核クラブ」はその威力を背に世界の資源を奪い合う一方、資金を持つ国家や投機家が形成する「欲クラブ」が、市場を通じて資源とエネルギーを支配しつつあることを指摘した。「欲兵器」が「核兵器」以上の破壊力を持っていることは、戦争のない日にも毎日飢餓と失業による大量殺戮を繰り返していることを見れば、明らかで「欲兵器」については、法律や条約でも歯止めができない。
「煩悩無量誓願断」「少欲知足」に代表されるように、仏教をはじめとして、健全な宗教思想と倫理哲学だけが「欲兵器」を抑えることができるのではないか。世界の金融と経済の大混乱。この100年に一度の危機の中で、再び100年に一度の大戦の芽が育つ危険がある。それだからこそ世界的な思想をリードした実績と伝統を持つ数少ない大国の一つとして、インドに期待するところが大きい。
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