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2009-05-29 00:00
豊かな高齢化社会のモデルを示せ
湯下 博之
杏林大学客員教授
米国に端を発した金融危機が実体経済に波及し、世界を覆っている。日本は、金融機関の傷は欧米に比べると浅いのに、実体経済への傷は深い。2009年の成長率予測も、主要国中で最大のマイナスと予測されている。不合理なことだと思う。なぜそのようなことになったのかというと、輸出依存が原因であるという。確かに、日本の好況を支えたのは輸出産業であったし、日本の経済発展を担った主役も輸出産業であった。経済回復の見通しも海外市場の回復次第と言われている。しかしながら、その海外市場に変化の兆しが見られ、金融危機発生前のような状況に戻ることはないとも言われる。
となると、貿易立国である日本にとって、輸出が大切であることは不変であるにしても、輸出に過度に依存する体質は改めないと、日本経済のぜい弱性はなくならないであろう。では、どうすればよいかと言えば、内需振興、それも公共事業中心のものではなく、真に民間活力を開花させるような内容の内需振興を行う必要があると思う。日本には内需があるのかといえば、種々の内需が潜在していると思う。唯、それを顕在化させるためには、それなりの政策や方向づけ、ないしムード作りや制度の改革等が必要である。
例えば、高齢化社会を迎えて、住居に関してもまだまだ高齢者の居住に適した改善が必要であるし、地球温暖化対策としての日本版グリーン・ニューディールともいうべき諸措置(太陽光パネル、エコカー、省エネ家電の普及等)、更には医療、介護、農業等の分野でも、妥当な誘導策と支援策があれば、やるべきことややりたいことは幾らでもある。また、高齢化社会を迎えて、高齢者の安心と生活の充実が国としても大きな課題であるが、高齢者には資産保有者が多いと言われているのに、将来の生活への不安のため、その資産は活用されていない。高齢者から将来の生活への不安を除く最短の道は、高齢者に年齢相応の就業の機会を与えることであり、それにより高齢者の生活が安定し、豊かな生活のための消費が増え、単に内需が拡大するのみならず、国全体の活性化も実現するであろう。
同様のことは、定年退職期を迎え始めた団塊の世代にも当てはまる。団塊の世代の人達が退職して年金生活に入るだけならば、退職金も老後の生活用に保存されて、内需拡大にはつながらないであろうが、退職後も年齢相応の就業の機会が得られることになれば、事情は大きく変わると思われる。少子高齢化が問題にされ、生産力人口の不足が云々されているが、それは生産力人口を65歳未満に固定して考えているからであって、長寿化による人口構成の変化に合わせた制度変更をすれば、問題は解決する。世界的な高齢化現象の先端を行く日本は、そのような制度変更により、内需拡大のみならず、豊かな高齢化社会のモデルをも示すことができるであろう。
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