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2009-05-26 00:00
(連載)オバマ大統領の医療制度改革(1)
若林 秀樹
元参議院議員(民主党)
経済や軍事などの国力と、国民の生活レベルや満足度は、必ずしもマッチしない。それは国が生み出した所得の再分配や国家支出に偏りがあり、また国民の声を反映した政策が実行されていないことに起因する場合が多い。日本でいえば、戦後、「世界に追いつき、追い越せ」をスローガンに経済成長最優先の政策を取り、その結果、国民の健康を優先しなかった「公害問題」や、「ウサギ小屋」と言われた貧弱な住宅環境等の問題が生じ、これらは国力と望ましい国民生活との間に生じたギャップの例として挙げられることであろう。
あの世界一の経済規模と軍事力を持つスーパーパワーであるアメリカでも、国民生活全体に目をやると、その国のイメージとは違う脆弱な社会構造が垣間見える。様々な社会問題は貧富の格差に起因する場合が多いのだが、国全体としては「小さな政府」、「自助努力」という社会的コンセンサスがある中で、国民生活に関わる様々な問題が顕在化しつつある。その最大の課題は、世界最先端の医療技術、医療体制がありながら、未だに約4700万人の医療保険の無保険者がおり、保険に入っていても、保険の種類やレベルによって満足な医療サービスが受けられず、高い医療費で自己破産する人が多い、という世界最先端の「医療不平等国」であることだ。
マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」は、アメリカの医療制度を批判した映画だが、アメリカと対比して取材対象国となったのは、未だに国交の断絶状態が続いているカリブの貧しい社会主義国キューバであった。一人あたりのGDPはアメリカの比較にならないほど低い。しかしキューバは、プライマリー・ケアを重視した医療制度を採用し、その医療体制は「キューバ・モデル」として世界的に有名である。医師の数は人口当たり世界一多い。高度な医療水準と体制を保持し、もちろん国民の医療費は無料であり、訪れたアメリカ人観光客にも無料だ。
いつでも安心して医療サービスが受けられるということは、生きていく上で極めて重要なセーフティネットである。どんなに貧しくとも、しっかりとした医療が受けられることの安心感は計り知れず、社会不安にならないためにも、政府が行うべき重要な社会保障政策の基本中の基本ではなかろうか。世界一の経済大国であるアメリカが、国民全般にいきわたる医療サービスを提供できず、何故カリブ海に浮かぶ貧しい小国のキューバが無料で満足のいく医療サービスを提供できるのか。社会主義国である国とは単純比較はできないが、国の在り方として色々考えさせられる点である。医療体制は、まさに政治的決断であり、政策としての優先順位の問題である。財源だけ考えれば、アメリカの軍事費の何分の一でも削るか、あるいはガソリン税の1ガロン当たり何セントでも上げれば、国民皆保険制度を作れるはずなのだが、なかなか実現できない。これが政治の難しさである。(つづく)
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