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2009-05-11 00:00
(連載)日本のソフト・パワーとしてのサブカルチャー(4)
水野 勝康
特定社会保険労務士
では、何故日本でこのような文化が花開いたのか。考えられるのは、日本が戦後一貫して「自由な社会」であり続けてきたということだ。この点、北東アジアの国々を見てみると、北朝鮮は論外、中国も未だに自由な社会とは言い難い。現在の台湾は警察の取調室にまでマスコミのカメラが入るほど自由な社会だが、1988年に蒋経国総統が戒厳令を解除してからのことである。韓国の自由化も1980年代以降のことである。これらの国々に比べると日本は先んじて自由な社会を作り上げた。何を読もうが、何を考えようが、何を見ようが自由であったし、発表する自由もあった。この自由な土台があったからこそ、日本のサブカルチャー文化は花開いたと言えるだろう。
この点、文化大革命時代の中国を例に挙げると、作家や芸術家は「反革命的である」として徹底的に弾圧された。文化大革命の発動は北京市副市長であった呉?が書いた「海瑞罷官」への批判であったし、著名な作家であった老舎が紅衛兵の吊るし上げを受けて自殺したことは、よく知られている。台湾や韓国では中国ほど文化に対する弾圧はなかったものの、軍事政権下の「息苦しさ」は人々の創作意欲を失わせた。冷戦時代、台湾人や韓国人のエネルギーは文化創作ではなく、専ら経済発展に向けられていたように思われる。
別の観点から考えると、日本は欧米や中近東の国々のような「一神教」的価値観からも自由であった。絶対的な「神」という存在が大前提でなかったことが、より自由な創造を可能にしたのではないかと考えられる。日本の漫画やアニメは時として「色情的である」と批判されることがあるが、所謂「萌え」キャラクターが見せる「可愛らしいちょっとエッチなシーン」は、キリスト教保守派の厳格な価値観の中からは生まれてこなかっただろう。イスラム教ワッハーブ派を国教とするサウジ・アラビア王国では偶像崇拝禁止というイスラームの教義を拡大解釈したため(もっとも、ワッハーブ派のイスラム法学者は拡大解釈だとは考えていない)、「ポケットモンスター」の持込みが禁止されている。像を作ることも禁止だから、美少女フィギュアなど論外であろう。こうした国では、宗教的理由から創作が抑制されており、日本のような自由はない。
日本の漫画やアニメを見ていると、様々な文化の影響を受けていることが見て取れる。小説を原作としてアニメになった「彩雲国物語」は、明らかに中国らしき国や文化を物語のベースにしているし、漫画からアニメになった「魔法先生ネギま」はイギリス、古代ローマ、古代ギリシアなどの影響が見て取れる。諸外国の文化を柔軟に取り入れ、消化してきた結果であろう。自由な社会と多様な外国文化を取り入れてきたことが、今日の日本のサブカルチャー文化を支える土台になったものと考えられる。(つづく)
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