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2009-05-10 00:00
世襲制は改革阻害の最大要因
若林 秀樹
元参議院議員(民主党)
民主国家は、国民が直接政治に参加する直接民主制でなければ、選挙などによって自らの意思を代弁してくれそうな代表者を選出し、その代表者をつうじて政治に参加する間接民主制である。いずれにせよ、大切なことは、直接であれ、間接であれ、自らが代表者になれる権利が確保されていることである。しかし残念ながら、政党中心の議院内閣制を採用している日本においては、そもそも政党公認の候補者になれる権利が実質的に世襲制で、極めて制限されているのである。世襲議員の言い分として「法の下の平等を定めた憲法14条、職業選択の自由を定めた22条に抵触する」「議員だった親や祖父母から直接学ぶ点が多かった」「最終的に有権者に選ばれない世襲議員は淘汰されるから問題ない」などということが言われる。
確かに、一理はある。しかし問題は、世襲議員の権利をどう守るかにあるのではなく、政党公認候補者の選出方法が極めて不透明であるなかで、実際にどのような民主的な手続きによって候補者を選ぶかにあるのである。小泉純一郎元総理は、長年応援してきた後援者を前に、自ら議員を引退すると同時に、二男を後継者に指名することを表明し、マスコミにも大きく取り上げられた。小泉純一郎氏は、祖父の代から続いた世襲議員である。祖父が初当選した1908年以降約1世紀の間、小泉家は議員の座を守り続け、首相まで出したわけである。その小泉氏が息子を後継者に指名したことは、事実上の政党公認候補者を決定したのに等しい。実際、自民党神奈川県連は、二男以外の候補者を選ぶことができるはずがないし、それを求めること自体が無理な日本社会の実態なのである。
しかし神奈川11区40万人の有権者の中で、息子より優秀な候補者は数多くいるかもしれないし、最大の問題点は、政治家を志す若者たちの夢をぶち壊したことである。世襲制が続けば、結果として優秀な人材は政治家を志さなくなる。現象的に起こっていることは、選挙区の「空き」がないので、自分の主義・主張と違う政党から立候補する政治家が多くなり、これでは二大政党制の定着にもつながらないし、日本のためにもならない。アメリカでも世襲議員がいない訳ではないが、数は圧倒的に少ない。候補者決定に際しては、極めて透明性の高いオープンな候補者選出システムがある。政党の候補者になるために、まず自ら名乗りを上げること自体は、基本的に自由であり、予備選挙等によって党員、有権者の厳しい目に晒され、最終的に政党の候補者として選出されるのである。
アメリカでは、オバマ大統領やクリントン元大統領のように、ほとんど知名度のない無名の政治家が、それぞれ上院議員、州知事を経て、大統領になれる道が開かれているのである。法律で世襲制を禁止することが難しいのであれば、政党がその選挙公約で世襲制に対する考え方を明確にすべきである。世襲制の良し悪しを別にして、ジバン(地盤:後援会)、カンバン(看板:知名度)、カバン(鞄:資金力)の3バンを活かすという観点に立てば、世襲制が最も効率的な制度であることは理解できる。その上で、民主的な方法によって候補者を選ぶことが現実には難しい実態を考えれば、政党は一定の範囲内の親族が同じ選挙区から立候補することを認めず、また政党内で恣意的に候補者に選出されることを防ぐ公正なシステムを導入すべきである。日本の改革が遅れている理由の一つが政治家の世襲制にあることは明らかである。ここは、思い切って実態としての世襲制を制限すべきであろう。
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